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休暇の終わり〔晶馬×冠葉〕

「次の仕事よ」
桃果はいつだって突然現れる。そしてそれは本当に時と場所を選ばないのだった。
「わあ!」
地平線まで続く大草原。一本のまっすぐ伸びる白い道。その畔に腰掛けて、立ち枯れた大木に背中を預けるようにして、冠葉と晶馬は今まさに口づけを交わそうとしていたところだった。聞き慣れた声の突然の介入に、二人ははじかれたように身体を離す。
「なんでこういうタイミングで現れるんだよ!」
真っ向から文句を言う晶馬の背後で、
「覗いてるんじゃないかって疑いたくなるタイミングだよな、荻野目さんのお姉さん」
冠葉も苦笑混じりに文句を言う。
「あら、覗いてないからこそ、こういうタイミングになるんでしょう? 二人とも服を着ている分だけいいじゃないの」
桃果はまるで二人の主張に耳を貸さずに、もう一度最初の言葉を繰り返した。
「次の仕事よ」
晶馬はむくれた。
「なんでだよ。今度の休暇はたくさんくれるって約束じゃなかったのかよ」
「あなたたちが必要になる事態が起こってしまったんだもの。それとも晶馬君。あなた、自分たちの休暇のために人を見殺しにしよう、って言うのかしら?」
「そういう言い方って卑怯じゃね……」
桃果が手を振り上げて、晶馬の口に押し当てた。口に大きなバッテン印の絆創膏を貼り付けられた晶馬は続きの言葉を言えずにもごもごと無駄に呻いた。
「今度の仕事ってのは?」
冠葉が木の根元に腰掛けたまま、尋ねてくる。この姿勢だとほんの少しだけ桃果の方が視線が上に来る。若干見上げられる体制に桃果は得意な表情になる。あまり見上げられることが少ないのだ。
「森の中に女の子が捨てられてしまったの。二人でその子を育てて欲しいの。独り立ちできるようになるまでの間」
「へえ……その子ってかわいい?」
「!!!」
勢いよく振り返って晶馬が冠葉を激しくにらみつけてくる。それを冠葉が手のひらの仕草で落ち着け、どうどう、といなしている。桃果はほほえんだ。
「さあ? でも、貴方たちが育てていれば、どんな子でもきっとかわいく育つと思うわ」
いかにも興味なさげにうそぶく言葉をねじ伏せてやれば、冠葉は数回目をぱちくりさせて、ため息とともに立ち上がった。ズボンについた草を手のひらで軽くはたいて、そのついでか何かのような仕草で晶馬の口に貼られた絆創膏をはがす。
「いてっ! もっと優しくはがせよ」
口元を手でなでながら晶馬は文句を言う。
「慰謝料は後で払ってやるよ」
その手のひらの上に手のひらを重ねて、冠葉は少しだけ笑顔を見せた。
「で? その子のいる場所ってどこなのさ」
少しだけ機嫌を直した格好の晶馬が漸く前向きな質問を口にした。
「ドイツよ」
「ドイツぅ?」
二人で絶句する。
「どうするんだよ。僕たちドイツ語なんてわかんないよ」
「文化も生活習慣もわからないしな。外国人の男二人が女の子育ててるって相当怪しいんじゃないのか?」
桃果はしかし、二人の主張にも相変わらず自信満々で答えた。
「言葉も文化もあらかじめ頭の中にインプットしておくから、その辺は安心して」
「生活費は?」
すかさず冠葉が問う。桃果は初めて少しだけ考える。全部桃果が出資するのは簡単だ。しかしそれでは……
「仕事がないと、冠葉君がただのぐうたらになっちゃうわよね。彼女が自立するための周囲との橋渡しも難しくなるし……」
「でも、また冠葉が仕事ばっかりでろくに帰ってこなくなったりとか過労で倒れたりするのはイヤだよ。二人で育てる意味ないだろ?」
桃果は頷いた。
「わかったわ。じゃあ、生活必要最低限は出資する。彼女にかわいい服を着せたいとか、甘いもの食べさせてあげたいとか、そういうのに関しては冠葉君、がんばって働いてね」
そう言うと、ようやく二人は仕事に取りかかる気分になったのか、軽い調子で今後のことを話し出す。
「ま、でもやってみなけりゃわかんねえだろ」
そう言ってどこか諦観の表情を浮かべる冠葉のそばに歩み寄り、手招きをする。
「ん?」
膝をついて耳を寄せてくる彼に、囁いた。
「よかったわね。コレで何人目かしら。冠葉君と晶馬君の子供」
「………あのな……」
がっくりと肩を落として疲れをにじませた声で言うけれど、桃果にはそんな演技は通用しない。
「冠葉君、晶馬君との子供欲しかったんだものね」
「勘弁してくれ……」
いかにも情けない声で言うのがおかしくて、クスクス笑っていると、
「冠葉! 何やってんだ、おいてくよ!」
向こうから少し起こったような晶馬の声。
「ああ、今行く」
そう答えてどこかよろける足取りで立ち上がりがてら、冠葉が一度振り返った。
いつものぶっきらぼうな表情ではなく、淡く無防備な、心の中をさらけ出したような表情で、彼は一瞬恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。
すぐに向こうを向いて、白くまっすぐな道を歩き出した晶馬を軽い駆け足で追いかけていく。二人の後ろ姿を見送って、桃果はよかった、と心から思う。

(貴方たちは人に愛を注いで幸せになる。世界にはまだまだ愛を必要としている子供たちが沢山いるわ。いっぱい愛して、少しずつ幸せになって……ふふ、貴方たちはどれほど幸せになってしまうのかしらね)
ますます輝いて美しさを増していく世界をもう一度目に焼き付けて、それから桃果はその場を後にした。まだやるべきことは沢山あったから。



[終わり]
〔ブログ;2012.02.04〕

なんか、書いてみた。

何となく自分の中では最終回後はこんなイメージ。


そうそう。全然関係ないけど、
昔、銀の月の消えゆくところ という本を書いている途中に、テンション上がってブログで、「鳥インフルエンザ! 鳥インフルエンザ!」とか叫んでいたら、本が出た後に読んでくださったとある方から、「鳥インフルエンザってこれかー!!」
という正しいつっこみをもらって、嬉しかったので
Stand by me収録の罪人の神様を書いているときに叫んでいた言葉をここに残しておきます。

バター!!!!!!!!

以上。
わかる人だけわかってください。すいません。わかる必要もない気もしますが。
まあそんな、以下は最終回後の晶冠+桃果です。桃果反則キャラ過ぎて使い勝手がよすぎます。
→続編らしきモノ


<塩湖 晶/20120322>

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