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行き違い。1


 今年は明治神宮に二年参りに行こうか。
 年の瀬も迫ったある日、酉の市でにぎわう神社のニュースを見ながら、光流は何気なく呟いた。
 ああ。
 光流のいい方があまりにも当たり前のことを話すようだったので忍も思わず答えていた。
 だらりと胡座をかいて、ポテトチップスを片手にTVを眺めている姿は、何か思惑があるようは見えなかった。
 いつもの光景。
 いつもの空気。
 それは子供の頃に見る夕方の風景に似て、心地よいのになぜか切ない。
 忍は切なさをゆっくりと吸い込みながら、もう一度答えた。
 そうだな。それもいいな。
 瞼の奥に浮かんでいた新幹線のチケットはそのまま闇に葬り去った。
 んじゃ、俺バイト行ってくんわ。
 光流は相変わらずのマイペースで上着を着込み玄関へ歩いていく。
 この当たり前の生活は、いつまで続くのだろう。
 一人になるとこの決して広くはない部屋がやけに大きな空間に感じられて、息苦しいほどの圧迫感を覚える。
 ああ、だから。
 忍は過酸素呼吸に陥っているのを自覚しながら、その息苦しさに身を任せた。
 最後の年の瀬を光流と過ごすために、どんな犠牲を払ってもいいと思った。





 もともと東京都心は不夜城と呼ばれるだけあって、二十四時間いつでもどこかで誰かが起きて動いている。けれども、大晦日はさらに特別で、ざわついた空気が地上周辺を浮遊し、風が吹くと、真っ暗な天空まで期待に満ちた無数の気配に満ちている。
 終電を気にして慌てることもなく。
 明日の朝起きる心配をする必要なく。
 そしておそらくは。
 忍はぼんやりと考える。
 自分の心に澱たまる後悔や罪悪感をも、一瞬だけ忘れさせてくれるような何かが、大晦日の空気にはあるのだろう。
 がたんごとんと、軽い音を立てて山手線外回りの電車が、アルミの車体をうねらせて進んでいく。
 駅と駅の合間も、町はとぎれることなく続き、どこまでが何という町でどこからが別の町なのか、窓から見てもまるで見当がつかない。
「原宿ー原宿ー」
 アナウンスを聞きながら、忍がふと我にかえると側にいたはずの光流の姿がない。
「光流?!」
 忍は慌てて電車を降りた。
 改札に向かう人の流れに目を凝らす。けれども見慣れた色素の薄い頭はどこにも見あたらない。
「忍?!」
 ぷしゅうとドアが閉まる音に紛れて驚いたときの半音上がった声が聞こえる。
 振り向くと、ガラス扉を隔てた向こうで光流が間の抜けた顔をしてるのが見えた。
 

(2005年07月21日(木)・つづく)
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<ゆや/ReUp;080114>



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