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電話口〔晶馬×冠葉〕

「そう、良かった」
病院の一角。公衆電話の大きい受話器を両手で持ちながら、陽毬は暖かい気持で微笑んだ。
大きくて冷たい病院の中、暖かい家庭のぬくもりは遠くても、こうして電話越しにでも触れられればそれで十分なことのように思える。
「良くないよ。全くあのバカ兄貴ときたら……」
ぼやく晶馬の声もまた暖かい。「うち」で何があったのか。話を聞く時間は一日の中で陽毬が一番大切にしている時間だった。
「ね、冠ちゃんはそこにいるの?」
「冠葉? いるよ。代わる?」
「うーん……」
陽毬は少し首を捻った。晶馬とはまた別の意味で陽毬は冠葉が好きだ。けれど少し違う。陽毬は殊更頼りがいのある彼や、優しい声でいつも優しい彼が好きなわけではない。いや、無論好きなのだけれど、そうでない感情も陽毬の中にある。
陽毬はちらりと公衆電話に表示されるデジタルの数字を見る。残りはまだたくさん。今や時代遅れになった感のあるテレホンカードは、冠葉が一体どこから巻き上げてくるのかまだまだ数え切れないほど陽毬の引き出しの中に入っている。
「代わって欲しいかな。でもね、晶ちゃん。お願いがあるの」



「陽毬、元気か?」
恐らく世界で一番優しい声を出して電話口に冠葉がでる。その声を聞きながら陽毬はわくわくする気持を抑えることが出来ずに、自然と弾む声で答えた。
「うん。元気。冠ちゃんは?」
「ああ、俺も元気……って、おい、晶馬っ」
穏やかで優しい声は途中から焦った響きのものになる。陽毬は嬉しい気持のまま冠葉に告げた。
「そう、よかった。それでね、あのね、わたし、晶ちゃんにお願いしたの」
「お願いって……なにを……」
掠れた声が僅かに戸惑っている。陽毬はますます嬉しくなった。
「わたしと話している間、そうしてって」
「え?」
理解が追いついていない様子に陽毬は嬉しさを隠せない。
「大丈夫。最後までちゃんと聞いてるよ。だからね、冠ちゃんも隠さないで。全部わたしに聞かせてね」
「陽毬? 何を……ちょ、晶馬! いい加減に……くっ……」
優しいだけだった声が少しずつ別の響きを帯びていくのを、陽毬はわくわくしながら耳を傾けていた。ごそごそとした物音がする。
「冠ちゃん、どのくらい脱がされちゃった?」
「え?」
 戸惑った声。かわいくて陽毬は小さく笑った。
「ボタン。何個外されたの?」
「え……さ、三個……」
戸惑った声は、けれど陽毬にはどこまでも従順だ。それが陽毬には心地いい。
「三個かぁ。案外まだあんまり脱がされてないんだね。ひょっとして晶ちゃんの手、服の隙間から中に入っているの?」
「う……」
まだまだ羞恥心に縛られた冠葉の声は固い。けれど、それでも陽毬に嘘などつけないのだ。この兄は。
「晶ちゃんの手、今どこ触ってるの?」
「わ……脇腹……」
「どんな感じ?」
「え……つ、冷たくて……くすぐった……」
冠葉の返答は常に戸惑いを含んでいて、陽毬の質問に常に後手後手に回っている。陽毬はにっこり笑って、けれど決して冠葉を待ってなどやらない。
「変だね。冠ちゃん。くすぐったがってる声には聞こえないけど?」
「…陽毬……?」
戸惑い続ける彼の声は甘い吐息を孕んで色づいている。陽毬は少し声の調子を落としてささやいた。
「ね、そろそろ晶ちゃんの指、胸の、女の子みたいなところ触ってきてない?」
「胸の……女の子みたいなところ……?……んっ、しょ、ま? ちょっ……」
焦る声が悩ましさの響きを強める。今まさに触れられているのかと簡単にわかってしまう声に陽毬は訪ねる。
「どう? 冠ちゃん。女の子みたいなところ、気持ちいい? 女の子みたいな声出ちゃう?」
「そ…… んな声はっ……でない……」
震える声が意地を張っている。陽毬は首をかしげて訪ねる。
「それは、冠ちゃんが男の子だから?」
「あっ……ああ」
上ずる声で、虚勢を張る。陽毬はだから、別の提案をする。
「じゃあ、冠ちゃんの男の子らしいところ、かわいがってって、晶ちゃんにおねだりして」
「……え?」
「男の子でしょ? 冠ちゃん。男の子の場所かわいがってもらわなくちゃ………もし、冠ちゃんが言えないんだったら、私が言ってあげようか?」
「い、いや、待て! ……俺が言う」
かわいい妹にそんなことは言わせられないとばかりに意気込んで、
「晶馬……その……こっちも……」
「こっちも、なに?」
いつもより少し低い晶馬の声がささやいている。
「こっちも……触ってくれ」
「もう、触ってるじゃない。冠葉が触らせたんでしょ? それで? どうしてほしいの?」
「可愛がって、って言って、冠ちゃん」
「か………わい……がっ……」
言われたまま冠葉は素直にその言葉を言おうとする。
(やっぱり、冠ちゃんはかわいいなあ……)
陽毬はその必死な声を聞きながらしみじみとそう思った。





「……はっ……」
潜り込んできた冷たい掌が、いつの間にか身体の熱を支配していた。性急な愛撫はともかく、電話越しに聞こえる天使の声が冠葉の正常な思考をjかんぜんに打ち砕いた格好だった。
「冠ちゃん、今は晶ちゃんはどこに触ってる?」
「……な……中に……入って……」
「冠ちゃんの秘密の場所に触ってるんだね……冠ちゃん、そこに触られるとそんなかわいい声出ちゃうんだ……私も触りたいな」
決して汚してはならない天使の声が背筋をゾクゾクと背徳感で痺れさせる。
「晶ちゃんの指、何本入ってるの?」
「いっ、……一本…」
「どんな風に動いてる?」
「んっ、…広げ………られて……」
ぐりぐりと押し広げるような動きを陽毬に伝えるために意識して捕らえなくてはならなかった。意識すればその分だけ追い詰められる。
「あっ………陽毬っ……」
「まだまだ広げちゃうよ。だって、これから晶ちゃんが入るんだもん」
陽毬の声と晶馬の指。守りたくて、大切で、清らかなはずのものが冠葉を追い詰める。
「でも、冠ちゃんは広げられるのが嬉しいんだよね。すごく、気持ちよさそうな声してるよ」
中をいじる指が追加される。肩を震わせて冠葉はそのことを陽毬に告げる。
「っ……指が……また……」
「いっぱいいじられちゃうね、冠ちゃん。……嬉しい?」
「ひっ……ぁ……陽毬ぃ……」
「ちょっと、兄貴」
のしかかる晶馬が不満そうな声を上げる。
「なんだよ、さっきから陽毬ばっかり……可愛がってあげてるのは僕だろ?」
中の指が激しく動く。粘液の値とつく音が聞こえて、
「だ、だめだ……聞くな、陽毬っ……」
受話器に必死にすがりつく。
「晶馬っ……ちょ、待て……」
「いっちゃいそうなの? 冠ちゃん」
「いきなよ、冠葉」
追い詰められる。何より大切な、二人に。
「あ。……あぁっ!」
「冠ちゃん。かわいいよ」
受話器越しに、口づけの音を聞きながら、冠葉は達した。


[終わり]
〔ブログ;201201/31〕

一番拍手がたくさん入っていたのが(当社比)
以前妄想としてはき出していた、晶馬にやられながら陽毬と電話してる冠葉の話書きました。

<塩湖 晶/20120327>

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