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流星少年〔晶馬×冠葉〕

「これから僕たちどこに行く?」
「どうする? どこに行きたい?」
「そうだなぁ……じゃあ、宇宙に行こうよ」
 晶馬がそう言うと冠葉はぽかんと口を開けた。
「宇宙?」
「そう。地球外生命体のあの帽子にもう一度会って……って、なんだよ」
 あんまり冠葉がぽかんとしたままなのに不貞腐れた気持ちになって、問いかけると冠葉はすぐに優しい顔になって言った。
「いや、いいよ。行こうか。宇宙に」
 笑顔とともに差し出されたてのひらに、晶馬はすっかり嬉しくなってしまう。
「うん、行こう。どこまでも一緒に!」



 深紅のカーテンの向こうに広がる夜空は圧倒的な星々に彩られていて、晶馬はもうだいぶ長いこと言葉を失ってその光景を眺めていた。
 七色に輝き広がる星雲の、さまざまな形に驚き、時折光を黒く切り取る暗黒星雲の威圧的な闇の濃さにも目を奪われる。きらきら輝く星団の数々に目を細めて、空間を捻じ曲げてすべてを吸い込むブラックホールに息をのむ。
「本当にすごいよねえ」
 そういって振り返るとベッドの上、冠葉はのんきな顔で眠っていた。
「って、なんで寝てるんだよ!」
 冠葉と二人で見つけて二人で完成させたベッドの上、いよいよ二人だけの旅が始まったというのに当の冠葉はいきなり寝こけている。あまりの仕打ちに少しだけ腹が立つ。
「冠葉、起きろよ」
 覆いかぶさるような恰好でそう言うと、冠葉はわずかに身じろぎをして目をこする。
「晶馬?」
 間延びした声で名前を呼ばれる。口の端からわずかに唾液がこぼれていた。本当にだらしのない、そう思いながらも、妙にそこから目が離せず、指先でそっとぬぐってみれば、
「あれ?」
 自分の手がやけに大きいな、と思えばいつのまにか晶馬は記憶にある中で一番成長していた頃……16歳の時の身体になっている自分に気づく。
「え、なんで……?」
 不思議に思いながら、冠葉の顔を見下ろす。幼い子供の顔であっても、閉じられた瞼は冠葉らしい涼やかな曲線を描いていて、そこに影を落とす睫毛が奇妙に憂いを帯びて、彼独特の色香を放っている。
(あ…まずい)
 自分の中に確実に育っていく衝動に、ほとんど反射的に晶馬は危機感を覚える。組み敷いた形の体制から逃れようと、身を引こうとしたとたんに手首を掴まれた。
「冠葉?」
 ゆっくりと、冠葉が目を開く。晶馬によく似た、くすんだ緑の瞳が、睫毛の下から現れる。心臓が痛い。ほとんど喘ぐような呼吸を繰り返し、何とか自分を保とうとしていると、見上げる冠葉の顔が小さく笑った。
 冠葉が小さく寝返りを打つように身体の向きを変える。同時に彼の手足がしなやかに鮮やかに伸びていく。それはまるで本の一瞬の変身だったのだけれど、晶馬の目にはやけにゆっくりと焼きついた。色素の薄い手首が、首筋が幼い輪郭からしなやかに、どこかしら妖艶に育っていく。一度閉じた切れ長の目はゆっくりを開かれて、流し見るように晶馬へ視線を注ぐ。
「なんだよ。やらしいな、晶馬」
「しっ、仕方ないだろ。冠葉が……」
 冠葉菌を振りまくから……と、もごもご言う晶馬を見上げる冠葉の目が優しく笑った。
「いいよ、晶馬」
 下から伸びてきた掌が晶馬の頬を包む。その暖かさが泣きたくなるほどいとおしくて、晶馬は両手でシーツを握りしめる。気が付けば息が完全に上がっていた。
「冠葉……」
 震える声をようやく押し出すと、頬を包む掌はゆっくりと髪をかきあげるようにして耳の後ろを通り、後頭部を撫でられるようにして首に手をまわしてくる。引き寄せるように力を込めて、見上げる冠葉の顔がうっすらと微笑みを浮かべる。わずかに優しくなる涼しげな眼、優美な曲線を描く白く薄い唇。見慣れているはずなのに、血液が逆流するかのようにおかしな感覚が体中を駆け巡り、くらくらとめまいのような感覚に思考が混とんとしていく。
 引き寄せられる速度ももどかしく、冠葉の白い首筋に吸い付いた。彼の耳の後ろに鼻先をこすりつけるようにして、吸っては嘗める。冠葉の匂いがますます晶馬を酩酊させる。
「いきなりそこかよ…」
 苦笑交じりの冠葉の声は若干の悩ましさを帯びて、晶馬は衝動を抑えることが出来ずに噛みついた。冠葉の身体は一瞬すくんで、けれどすぐに優しく抱きしめてくる。
「痛い?」
「痛い。……でも」
 首筋を上り、顎のラインに口づける。
「お前を感じられるから、いい」
 顎から上へ舌を滑らせていく。恥ずかしいことばかり言う唇を唇で塞ぎ、舌と舌を絡めあう。こんなことは初めてで、上手にできない晶馬を導くように優しく応えてくれる冠葉に、また晶馬の胸はくすぶる。
(一体誰と、何人とこんなことしてんのさ)
「ん……」
 息継ぎの狭間に、瞼を伏せて吐息を吐き出す。冠葉のそのしぐさが、表情が、わずかに洩れる声がやけに悩ましい。手もなく煽られて溺れる。
「冠葉……冠葉、おいしそう……」
「お前……相変わらず、色気のねぇセリフ……」
 口づけを繰り返しながら、もどかしい手つきで冠葉のネクタイを解く。自分のを解くのとは勝手が違う所為でもたついていると、白い指先が伸びてきて器用に解いてくれる。彼のその余裕に少し苛立ちを感じた。
 手の中に残るネクタイを見て、新しい衝動が生まれた。冠葉の右手をとると、手首をベッドの手すりに結びつけた。
「マニアックだな」
 どこか他人事のような呑気さでそう評される。経験の豊富さ故の余裕なのか、それとも単に自分にだったら何をされても頓着しない性質なのか、どちらにしても腹が立つことに変わりはない。
「跡付いちゃったらごめん。暴れなきゃ大丈夫だと思うけど……」
 少し突き放した物言いで、無体を働くことを断行する。
「これだと、抱きしめてやれないな」
 自然な様子で冠葉が言う。そのあまりに当然のように言われた言葉に、晶馬はほとんど怒りにも似た感情を覚えた。
 晶馬は今冠葉を食らおうとしているのだ。それなのに自分の身を心配するどころか、この期に及んでまだ自分が与えられないことを憂いている。
「そんな心配するなよ」
「だって、お前は自分を責めるだろ?」
 涼やかな、けれど暖かい目が見上げてくる。言われた言葉に晶馬の頭の中は真っ白になった。
「俺は、お前を責めてないのに、お前はお前を責めるだろ。だから……」
 冠葉が左手を差し伸べて晶馬の頬に触れた。優しく撫でてくる指先を掴んで舌を這わせる。晶馬には冠葉のすべてがおいしそうに見えて仕方がない。指先を口に含んで丹念にねぶる。がっついて息を切らしながら、指の股に至るまで執念深く味わう自分はまるでケダモノだと思った。
「ん……はっ…」
 色づく吐息を吐き出して、組み敷いた冠葉が身をよじる。晶馬はますます飢えて、青い血管の透ける白い手首を音を立てて吸った。唇や舌先に感じるなめらかな感覚が気持ちよくて、かすかに浮き出る血管をなぞるようにして味わった。
「…ふっ……しょ…ま…」
 面白い程素直に反応が返ってくる。
「女の子たちとしていた時も、そんな風によがってたの?」
 かすかな苛立ちを隠して問いかけると、冠葉はひどく無防備な目で晶馬を見上げてきた。相手の言うことをすべて受け入れて従う目。その幼い一途さが晶馬を煽る。
「その目は…!」
 感情に任せてシャツの前をはだけていく。まるでキャベツか何かを剥いているみたいだと思った。柔らかく白い中身が露わになり晶馬の目を引く。
「その目は僕以外に見せるなよ」
 言って、シャツの狭間に顔を押し込むようにして白い胸を味わう。
「最低だ。甘いお菓子をその辺に置いといたら、虫がたかって食べちゃうんだよ。冠葉。僕以外の奴らには、ふたをしてくれなくちゃあダメだろ?」
「なんの話だよ」
「冠葉の話だろ?」
 言って、シャツの奥に鼻を突っ込むようにして乳首を口に含む。嘗めては吸いを繰り返していると、まるで母親に甘えている子供のような気持ちになって少しくすぐったい。
(ここに思いきり噛みついたら、さすがに噛み千切っちゃいそうで怖いな)
 そんなことを考えながら軽く歯を立てれば、彼の身体は面白いように震えた。
 さんざん気のすむまでその場所に舌を絡めてから、顔を上げれば、冠葉の目はわずかに潤み、唇を薄く開いている。悩ましげな表情に強く腰が疼いた。
「冠葉……」
 その顔から目を離さぬまま晶馬は言った。自分でも驚くほど冷たい声音だと思った。
「したい…んだけど」
「ああ」
 冠葉は素直にうなずくと、自由になっているもう片方の手を下に伸ばした。片手で器用にベルトとボタンを外し、ファスナーを下して中に忍び込ませる。
「少し……んっ…待ってろ」
 わずかに苦しげな表情を見下ろしながら晶馬はさてどうしようかと考えた。冠葉が準備をしてくれる間、素直に待っていてもいいし、今まで通り彼の身体を味わうのもいい。けれど……
 晶馬は冠葉のズボンに手をかけると、下へとずりおろした。
「晶馬っ…」
 非難めいた声音で名前を呼ばれるのを無視して、彼の左足から下着ごとズボンを引き抜く。冠葉のしていることが露わになる。晶馬はベッドの上に直接頬杖をつくようにしてその場所を覗き込む。
「なるほどね、ここを使うんだ……って、確かにほかに使えそうな場所ってないけど……」
「晶馬…いいかげんにしろ」
 両手がふさがっている冠葉は器用に足を使って晶馬を押しのけようとする。本気で嫌がっている様子に胸の中がざわついた。
「なんだよ。見せてくれたっていいじゃんか」
 晶馬はぐいぐいと押してくる足を掴んで、押し戻そうとしているうちに、冠葉の身体をうつぶせにひっくり返すことに成功した。
「この格好の方が見えやすいんだな」
 感心したように言うと、シーツに顔を押し付けた格好の冠葉は恨めしそうに呻いた。
「ほら、そんなことよりも続けてよ。僕待ってるんだから」
 催促すれば渋々といった様子で膝を立て、腰を高く掲げた姿勢になって指を動かせ出す。どこか一生懸命なその様子に、素直に可愛いなと思った。
「冠葉……」
 いいこだね。そう思ったけれど口には出さなかった。代わりに尻の肉を割り開くようにしてその場所に舌を這わせた。
「ひっ、しょ、晶馬!!」
 初めて、悲鳴じみた声が漏れた。晶馬は少し不思議に思う。余裕のあるように見えた冠葉でも、コレは想定外なんだ。そのことに少し驚いて、少し嬉しい。
「それはっ……ダメだっ……汚い……」
「そうだね。汚いよ」
 冷たくそう言い放つ。逃げようとする腰を捕まえて、なおも嘗める。晶馬のために道を広げようとする指も、その指を突き入れられているところも、等しく、丹念に。目に見えてその場所が震えだした。
「はっ……しょ……やめっ…」
 懇願。喘ぎ。どこか悲痛な響きを帯びて、
「しょ…ま……汚れるっ……ダメだっ…」
「でも、冠葉はこれが気持ちいいんでしょ?」
「あっ……ふっ……」
 晶馬の目の前で、突き入れられる指がもう一本増える。目の当たりにする冠葉の興奮がさらに晶馬を掻き立てる。
「汚れても、いいよ。……たくさん嘗めてあげるから、早く僕のものに……」
 唾液を塗りこめるようにして隅々まで嘗めると、もう冠葉の口からは意味のある言葉は出てこない。体中を震わせてよがる冠葉は晶馬の目にとても『おいしそう』に見える。
(これじゃあ、虫もたかるよね)
「ずいぶん気持ちよさそうじゃないか。結局、兄貴は僕が汚れるのが一番感じるってこと?」
 晶馬は冠葉の手を掴んで、埋め込まれた指を引き抜いた。そうして彼の身体にのしかかると、指の代わりにとっくに硬くなっていたものを押し込んだ。
「いいよ。一緒に汚れてあげる。その代わり、僕だけのものに……」
「うあっ……」
 目の前の背中がしなる。ああ、最初に全部脱がしておけば今ここに噛みつけるのにとぼんやり思った。冠葉の中は予想以上に熱くうねって晶馬に絡みつく。
「うっ…」
 その手の経験に疎い晶馬はたちまち持って行かれそうになりながら頭の片隅で思う。
(これって…誰かに教わった?……教え込まれた?)
 男が男に犯されて、こんなに淫らに絡みつけるものなのだろうか。しかし晶馬の知る限り冠葉の周りにいたのは女の子ばかりで……
「ふぁっ……しょ、まぁ……」
 甘い声に名前を呼ばれて思考が途切れる。途端に我慢が効かなくなり、晶馬は精を吐き出した。
「ご、ごめん……」
 肩で息をしながら素直に謝る。いくら知識がなくたって、こんなに早く勝手に一人で達していいはずないことくらいはわかる。なのに、
「いや……いい。ヨかったぞ」
 まだ自分は達していないのに、まだ内部を物欲しげにうごめかせているくせに、冠葉は優しくそう言って笑顔を見せた。
「そう……」
 その優しく無邪気な笑顔を見て、晶馬は
「でも大丈夫、安心して」
「晶馬?」
 彼をもっと、蹂躙したくてたまらなくなっていた
「まだまだできるから」
 再び中で硬くなったものを動かしだす。驚いたように見開かれた冠葉の目が再び快楽に染まっていくのを、心地よく眺めて、
(だって、もう6年間も我慢してきたのに、これだけで済むはずないだろ? 冠葉)
 本当は、彼にたかる虫の中で、一番悪い虫だったのは自分なのだと、そのことに晶馬は少しだけ絶望していた。





「つか…れた……」
 ベッドに横たわったまま、もう指一本動かせない様子の冠葉は、絞り出すようにかすれた声で言った。
「存在するとかしないとか、そういう次元を超えた身体になったはずなのに、疲れるもんは疲れるんだな」
 そんなことをぼやいている。晶馬も疲れてベッドに座り込んだまま、けれど冠葉の様子に首をかしげる。
「あれだけ女にだらしなかったくせに、案外体力ないんだね、冠葉」
 言うと、どうやら彼の心をえぐってしまったらしく、ムキになった顔で振り返る。
「あのな、お前が異常なの! 虫も殺せないような顔して……」
「いやだなあ。虫くらい殺すよ。それこそ目についた端から全部」
 にっこり笑ってそう答えれば、冠葉は絶句して、がっくりとうなだれた。
「あーもう。んないっぱい出しやがって……」
「え? 何を?」
 言われたことがぴんと来なくて聞き返すと、冠葉はにやりといやらしく笑った。
「晶馬菌だよ。晶馬菌。俺、晶馬菌に冒されちまった」
「なっ……」
 今度は晶馬が絶句する。顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「なっ、なんだよ。ばっちい冠葉菌と一緒にするなよ! 僕は冠葉みたいに誰彼かまわずじゃ……」
 むきになって掴みかかれば、冠葉はいたずらっ子の表情で楽しそうに笑った。そうして晶馬の耳元に唇を寄せると、
「お前だったから、気持ち良すぎて疲れたんだよ。お前が一番、ヨかった」
 意味を理解するなり、ほとんど頭が沸騰するような気がした。そこいらに転がっていた枕を引っ掴むと、晶馬はいてもたってもいられなくて、ろくでもないことばかりを言う冠葉の顔に枕を押し付けた。
 すぐに参ったというように手がシーツを叩くので、恐る恐る解放してやると、
「お前なあ、息できねえだろ」
 恨めしそうに文句を言われる。
「別にいいだろ。きっと息できなくても死にやしないよ」
 そう言ってそっぽを向く。
 ベッドのカーテンから見える星空は、行為を始めたころと変わりなく、色とりどりの星と星雲にあふれている。星空を飛んでいくベッドの上でしばらく言葉をなくしてただその光景を眺めた。
「そういえば、汚しちゃったね」
 ちらりと冠葉の方を見て晶馬が後ろめたい気分でそう言った。
「ん? こんなの別に……」
 だらしない性格ゆえに、適当に拭いて終わりにしそうな様子で冠葉が言う。
「ダメだよ。ちゃんと洗わないと。兄貴をきれいにしておかないと僕の沽券に係わる」
「なんだそれ……」
 冠葉は呆れたような表情で晶馬を見て、それから不意に視線をベッドの進行方向へと向けた。
「じゃあ、そうだな。行き先は天の川!」
 そうベッドに命令する。
「天の川で水浴びすればいいだろ?」
 そう言って振り返り笑う冠葉の顔は……そう、初めて晶馬が彼と会った時と何一つ変わらない。晶馬にとっての光であり、道しるべであり、そして何よりも大切なものだった。


[終わり]
〔PIXIV;2012年01月03日〕


<塩湖 晶/20120322>

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