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人の口に門は立たず。


 こんな夢を見た。



 北西の角に作られた書斎は、竹林にさえぎられて薄暗かった。
 それとも、既に日が落ちていたのか。
 風が吹いて葉が揺れるたび、障子に映る影が、今にもあやかしの姿に変わりそうな気がして、どこか落ち着かない。
 部屋の真ん中で文机に座していた忍は、ガタガタと、風の音にしてはやけにはっきりした物音に気づいて、手にしていた筆を硯で直しおいた。
「何か用か?」
 文鎮の下から半紙を引き出しながら、抑揚もなく尋ねる。
 客は、背後の玄関からではなく、竹林に面した裏からきたらしい。
 羽織の袖を払って、音もなく立ち上がると、影が文様を作る障子を静かに開いた。
 表には青暗い闇がぼんやりと広がり、竹の葉がザワザワと音を立てるのが、波のように部屋の中に流れ込んでくる。忍自らの手で部屋の封印を解いてそれを招き入れたのだ。
 薄闇に溶け込んでいた異形の姿が、どっこらしょ、とでもいいそうな大きな体を揺らして中に入ってきた。
 あやかしはいう。
「お願いがあって参った」
 忍は再び文机の前に座って、硯に墨を擦りはじめた。
「何の用だね」
 忍はもう一度尋ねた。
「こちらこそ聞きたい。何用があってこのようなことをなさる」
「このようなことを、といわれるようなことはまるで覚えがない。人違いではないだろうか」
「この離れは静かで音がない。少し離れた門にでも人が訪ねてくれば気配がするであろう」
 忍ははて、このあやかしは何時からここにいるのだろうと不思議に思いながら、そういえば最後に人が訪れてきたのはいつのことだろうと思い返した。
 その時、あやかしのいうとおり、門の木戸が開閉する軋むような音が聞こえて、誰か来たなと思うまでもなく、背後の戸が勢いよく開いた。
「おい、忍。生きてるのか」
 まだ肌寒い時分だというのに、構わずに羽織も身に付けず、大股で歩いて裾がめくれるのも気にしない。
「光流」
 忍は突然我に返ったように呟いた。
「またこんな暗いところで字ばかり読んで、目が悪くなるからやめろとあれほどいったのに」
 圧倒的な存在感が部屋の中に広がって、さっきまでの静かな部屋とはまるで違う空間になったかのようだった。
 あっけにとられたまま、忍が何も声に出せないでいると、光流はにぎやかな存在感を部屋中に振りまいて、忍のすぐ側まで、やはり大股で歩いてきた。
 畳が軋む音を立てる。
 光流は歩き方からすると意外なほど礼儀正しい所作で、膝を揃えて文机のそばに座ると、畳の上に散らばっていた数葉の半紙に手を伸ばした。
「人の口に門が立つ……日……。なんだ。漢字の練習でもしていたのか」
「いや。今、あやかしと取引をしそうになっていたところだ」
 そういってふと、光流の手元に視線を落とすと、ああ、とぼんやりした声が思わず漏れた。
 忍は筆をとり、半紙を広げると、くの形に「不」をいれ、「人の口に門は立たず」と正した。続けて書こうと思ったのは何であったのか。寺を足して、「時に」と結んだ。
「どうかしたのか」
 光流の問いかけに忍は小さく笑った。
 書いた文字の中に闇が囚われていたのだ。




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思い出せなくて、適当に補完したところもありますが
概ねこんな感じの夢を見ました。

<ゆや/20060320>

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