カウンセリング ―保健医の守秘義務―授業中、緑都学園校舎内はひっそりと静まり返っていた。 その校舎の片隅――保健室の中では生徒らしき声と教員らしい低い声がぼそぼそと話をしていた。 「いや俺は別に捨てるもんなんてないし。あれはあれで学校中に名前が売れてラッキーって感じで」 「手塚の方はどうしてる?」 「さあ……時々むっとした顔で俺のことを睨んでるけど」 「……おまえ……そのうち寝首を掻かれるんじゃないか」 「うーん。でも薄ら笑いを浮かべているより可愛くて好きだけど」 「へえ」 「こどもがさあ、大人に思いっきりからかわれてむくれているみたいな感じで」 「…………………………池田……光流君……君、いつもそんなこと考えてるから、背中すりむいたり膝すりむいたり手のひらがべろーんとむけたりするとか思わない?」 「たぶんね」 若い声はどこまでも世間話をするように何気ない。対して、 「…………………………………冗談だったんだけど…………」 そうぼそりと呟く声はどこかたじろいでいるようにも聞こえる。 「でもさーあいつ、最初、ほんっとーにむかついたから、こう、あいつのやるように裏からじゃなくて、真っ正面からじわじわじわじわと、やることなすこと逆手とってぜってーやりたくねえ、とか思うようなことをやんなきゃいけいように仕向けてやろうか。とか考えてたんだけど」 「うんうん」 「中身は第一印象より不器用で可愛いやつだったから」 「やめたんだ」 「……………………そう」 「俺たち、いい友達になれるんじゃないかと思って」 「……………………………………………そうだねえ……」 「だろ?」 「………………………………………………」 「あ、そうそう。確認しておくけど」 「なんだい?」 「カウンセリングの内容は秘密厳守、でしたよね?」 「もちろん」 「針が刺さろうが弱みを握られて揺すられようが呪いをかけられようが、話しませんよね?」 「…………呪い……は穏やかじゃないなあ」 「……保健医のカウンセリング。秘密厳守は看板に偽り在り。教育委員会御中」 「わーわー。光流くんっ、俺はしゃべらない。呪われてもしゃべらない!」 「そう? じゃそういうことで」 少年はあっさりとした声で会話をしめた。 古い立て付けの引き戸ががらがらと音を立てて開閉する。 残された声がため息とともに呟く。 「なんつーか」 手塚忍――要注意保護観察。 「……が、頑張れよ」 あわれな子羊が狼の魔の手から逃げ出せますように。 一弘はしばしどこかの神に祈った。 <ED> <ゆや/20050928/ReUp;080113> なにげに鬼畜光流が書きたい気分だったので。 |